法学部ドイツ人に故意と意図って似てるよねって言ったら10分詰められた話
ドイツ留学時には刑法典の総論の講義を受講していた。
交換留学で法学部*1に行こうとする人なんざ非常に少なく(実際ドイツに留学する外国人の間でも少なかった)、さらに刑法なんぞ受けよう交換留学する日本人なんて院生以外だと後にも先にもいないんじゃないか*2とすら思う。
幸い(?)日本の刑法典はドイツの影響を受けており、日本の刑法を知っていればドイツ語の対訳を知っていれば大部分は事足りる。*3
が総論で日本の刑法典(と学説)と違うなと思ったところはもちろんあり、具体的には:
①故意に対する考え方
②因果関係
③殺人罪が二類型(MordとTotschlag)と二種類あること
④他者の生命を犠牲にして緊急避難(Leben gegen Leben)を行うことの禁止
でまあ今回は因果関係を説明していこうと思う。*4
結論から言うと、故意の認定そのものが結果として大きく異なることはない。ただドイツは分類がやたら細かいのである。
まず故意とは何か?
原則として日本もドイツも故意(Vorsatz)がある犯罪こそが処罰の対象であり、過失(Fahrlässigkeit)しかない犯罪を処罰するのは例外的である。過失が処罰されるのはよっぽど重大な結果(人の死亡とか)をもたらすものだけであり、故意犯こそが処罰の大前提である。よって過失犯は故意犯よりよっぽど処罰が軽く*5
日本の刑法においては現在は故意の範囲においては「認容説」がとられている。平たく言うと、わざと確実に犯罪の結果をもたらすことだけでなく*6、「(犯罪の)結果が起きる可能性を予見し」、「結果の発生を構わない(認容する)と思う」(人がいるかはわからないが、歩行者天国でトラックを暴走させる、とか)時にも故意を認めましょうね。というお話である。そしてこの認容説が故意犯の下限(それ以下は過失)であることにはドイツも日本も変わりはない。がなんとドイツは故意犯を3類型にわざわざ分類する。デコレ外貨の図である。
最初に断っておくとAbsicht、Direkter Vorsatz、Eventualvorsatzのそれぞれに和訳を振ったのはあくまで個人的な説明の為であり、そのような定訳があるわけではないことに注意されたし。
正直下限だけでいいんじゃないか感はする。日独で変わらないし。しかも学説なだけなので具体的に構成要件(Tatbestand)にかかわってくるという感じでもないし。*7
ちなみにツイッターでよく言っている「法学部ドイツ人に故意と意図(VorsatzとAbsicht)って似てるよねって言ったら10分詰められた」って言っているのはこれが理由である。ドイツ刑法の学説ではVorsatz(故意)の中にAbsicht(意図)があるのである。講義受ける前だったし知らなかったおかげで地雷を踏みぬいた。
類型がスラッシュで区切られているのは前者はドイツ語での呼称、後者はラテン語での呼称である。よーろっぱのいんてりはラテン語がお好きなので、法学にもラテン語がたくさん出てくるのである。本当に勘弁してくれ。
他の日独の刑法の違いはおいおい話したいと思う。需要は知らん。