ドイツ刑法典における因果関係
ドイツ刑法典における因果関係(Kausalität)ですが、
ドイツ刑法典では通説・判例は日本のような条件説(Bedingungstheorie)と相当因果関係説(Äquivalenztheorie)のどっちつかずではなく、完全に「条件説(Bedingungstheorie)」が優勢です。
条件説ってなにかというと、
おおよそ犯罪の結果と行為の間に繋がりがあればおよそ全て条件が肯定されます。
「あれなければこれなし公式(conditio sine qua non Formel)」という考え方で、
「当該行為がなければ結果が起きてない→当該行為が結果を引き起こしている」
というロジックに基づいて因果関係を肯定します。
平たくいうと「被害者をナイフで刺した(行為)」→「被害者は死亡した(行為)」
加害者がナイフで刺さなきゃ被害者は死亡しなかったよね=因果関係の肯定となるわけです。
ただこれだと「被害者に死んでほしいと思って普通のありきたりな航空券をプレゼントした結果本当に飛行機が墜落して被害者が亡くなった」
という場合にも因果関係が肯定されてしまうので、実際には客観的帰責性(Objektive Zurechnung)で否定されます。
これは日本では危険の現実化(Risiko Verwirklichen)と言われるもので、日常生活上許容できない/反しない危険(Risiko)を現実化(verwirklichen)させたか、あるいは危険を高めた(erhöhen)かという形で判断されます。
対して日本では相当因果関係説が優勢(…だったような。)*1
これは簡単にいうと条件説のようにあれなければこれなし公式に当てはめ、さらにその因果関係に「社会通念上」相当性があるか要求するものです。*2
ドイツだと少数説なのかほとんど触れられなかった記憶。
でドイツで出されたベルリン高裁の判例では何が起きたかというと
「公道で時速100km/h以上爆走して自動車でレースして通行人跳ね飛ばして殺してしまいました」
という事件に対し
「あれなければこれなし理論に基づいてレースなかったら人は死ななかったので因果関係肯定(条件説充足)」→「公道で爆走は危険を高めた(危険の実現化充足」→「公道でレースしたってことは人死んでもしょうがないと思ってたんだよね?(認容説充足、殺人の故意を認定」→「結論は殺人罪で終身刑*3」
という判決が出て物議を醸したことがあります。最高裁で認められたそうです。
一方、ドイツの大学での刑法の期末口頭試験(留学生に筆記は難しいっしょ!!!ってことで口頭になったけど口頭も大概)で教授の興味から
「日本における因果関係(Kausalität)は?」と聞かれたことがあります。
「日本では相当因果関係説が通説ですが、結果は似ていると思います。(In Japan ist die Äquivalenztheorie eine herrschende Meinung. Aber die beide Resultat ist fast gleich, glaube ich.)」
と答えて教授が「そうそう!!!」とめっちゃ共感してくれた記憶があります、長々と語ったけど大してあんまやってること変わらんのではというお話でした。