なまけるりょうせいるい

ドイツと銃とバイクとドイツ刑法とアメリカについて語るウーパールーパー

キラキラドイツ留学ブログです、嘘です。好きなことだけ書きます。

「財政規律」「小さい格差」「低い失業率」が両立しえない話

よく「財政規律(低い税負担)」「小さい格差」「低い失業率」の三つが同時に両立しえないとして、「サービス経済のトリレンマ」のことについて触れていたけれど、実はG.エスピン=アンデルセンの福祉レジーム以外できちんとした文献を発見できていなかった。しかし最近探していたら、大本であるT. Iversenの論文を英語ではあるが発見したのでざっと読みではあるがまとめてみる。

https://sites.fas.harvard.edu/~iversen/PDFfiles/Iversen&Wren1998.pdf

 

結論から言うと、彼の主張は、工業化が終わり、サービス経済に移行した(先進)国では、「財政規律(低い税負担)」「小さい格差」「低い失業率」が原理的に三つ両立できず、必ずどれか一つを犠牲にして、同時に二つしか実現できないというものである。かなり元も子もない

経済的なロジックを交えていて、それなりに説得力はある。ただ、省庁の資料で引用されてたりする割に、あまりグーグルでも出てこないので、通説ではないのかもしれない。そこらへんの立ち位置が僕自身分かってないので、まあ参考程度に読んでくれれば幸いです。(でもこの前博士課程の人とこの話をしたら結構褒められたので、一応まともな主張なのだろうと思ってる)

 

ということでざっとまとめると

 

Iversenは、グローバル化が上述したような格差を発生させている一因かもしれないが、最も低い賃金を生み出す仕事であるサービス業にも注目しなければならないとする。

まず前提としてサービス経済に至る前の工業が発展している国では:

1.人々の増加していく所得が、収入に占める生きていくのに必要な消費財(食べ物とか)の支出の割合が減り、生活上必ずしも必要ない耐久消費財への支出の割合が増える(エンゲルの法則)

2.人々が物質材へ感じる必要性が高いため、物質材は価格弾力性がある。つまり、価格を下げれば需要がその分増える。賃金の上昇が生産性をすべて吸収してしまわない(食ってしまわない)なら、(生産性向上の)結果として生じた生産物の相対価格の下落は、工業セクターでの雇用市場の拡大につながる。急速な生産性向上は、賃金を上昇させ、そして市場を拡大し、さらなる雇用を生み出す。*1

ただだんだん発展してくると、マーケットの飽和と消費者が量より質を重視することによって、上述したようなサイクルが止まってしまう。このような状況下に陥ると、生産性向上が雇用減少にすら陥る。

それは経済がサービス業に移行することを伴うが、サービス経済では生産性向上が遅いか、質の低下を伴ったものである。(先生がより多くの生徒を一気に見ようとすれば、あるいは看護師がより多くの患者を一気に見ようとすれば、それは質が低下しているだろう、という例が出ている)サービス業への需要はあるが、このような状況下ではサービス業の価格の低下と賃金の上昇を両立するのが難しい。しかし、もし仮に工業セクターの生産性が変わらないペースで上昇するなら、サービス業の賃金、つまり人件費も結局吊り上げられ、サービス業に占める人件費の割合が増大(ボーモルのコスト病)する。

ということで結果として何が起こるかというと、

(1)サービス業における賃金を引き下げることで、低価格、需要、雇用を守ることを許容する可能性。
(2)それを防ぐため、政府が公共セクターを創出し、比較的高い賃金で雇い、失業率や格差を吸収する可能性。なお税負担の上昇と財政赤字を招く。

このことから、最初に述べた「財政規律(低い税負担)」「小さい格差」「低い失業率」の三つが両立できない、「サービス経済のトリレンマ」が導かれる。

「財政規律」「小さい格差」を求め、「低い失業率」を犠牲にしたのがキリスト教社会民主主義、例えばドイツ。

「小さい格差」「低い失業率」を求め、財政規律を犠牲にしたのが社会民主主義、つまり北欧のスウェーデンなど。

「財政規律」「低い失業率」を求め、「小さい格差」を犠牲にしたのが明示はされていないが新自由主義アメリカ。

 

以上がIversenが最初の10ページぐらいで言ってた内容のまとめです。ロジックとソースが知りたかったのでこんなもんでいいのかなと。というか想像以上に難解で飽きた
1998年に書かれた論文で、よくもまあこんな内容を1998年にかいていたなあと感心するばかりです。

個人的には、日本は3つ目になっていきつつあるのかなあとは思ってます。財政規律が破綻してる?知らんなそんなものは

 

あんまこれについて詳しく書かれた日本語の文献がないので、これがサービス経済のトリレンマへの理解の助けになれば幸いです。

*1:まあつまり、工業が現在進行形で発展してる国(日本だと高度成長期か)だと、生産性が向上させやすく、それに伴って雇用と賃金と市場が上昇しますよという話です。(論文の中では"Golden Age"とか書かれてる)